ツユクサ | |
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『万葉集』には、この月草を詠んだ歌が9首採られています。「月草」という言葉を「うつる」「消(け)ぬ」「仮(かり)」の枕詞として用いている歌、あるいは実際の花の咲いている時間の短さ、染料としての色の変化のしやすさを詠んだ歌などさまざまですが、いずれにせよ大部分の歌が物事や人の心のうつろいやすさを悲しむ歌。ツユクサには、古くから感傷的なイメージがまとわりついていたことが分かります。 ツユクサは本当にどこにでもある雑草で、6〜9月の間、花を咲かせ続けます。ひとつひとつの花の寿命は短く、早朝開き、日が高くなるとともにしおれてしまいます。花の外側にある、円を二つに折ったような部分は「苞(ほう)」という蕾を保護する器官で、この中には数個ずつの蕾が収納されています。花弁は2枚しかないように見えますが、じつは小さくて目立たない白っぽい色の3枚目の花弁があります(これはツユクサ属の植物の特徴)。雄しべもちょっと変わっていて、6本あるうちの2〜3本だけが正常に機能し、残りは退化しています。このような退化した雄しべを、「仮雄蕊(かゆうずい)」と呼びます。 ツユクサには、いくつかの変種や品種(forma)があります。シロバナツユクサはその名の通り白花の品種。青花で花の縁だけが白く、輪を二つ連ねたような模様をつくるメガネツユクサという品種もあります。写真のものは葉に白い斑が入るギンスジツユクサです。ツユクサより一回り大きな花を付けるのがオオボウシバナで、これは冒頭に述べたような描染の下絵用の染料を採取するため、滋賀県草津市で栽培されています。 草津市ではオオボウシバナを「青花」と呼んでいます。青花は畑で栽培され、和紙にオオボウシバナの花の絞り汁を染み込ませた「青花紙」という製品として出荷されます。 オオボウシバナの染料の採取はとても手の掛かるものです。まず早朝に花を摘んでいくことからスタートしますが、この時に二枚の花弁だけを丁寧に摘み、萼やしべなどが混ざらないように注意します。収穫後、それでも多少は混ざってしまう萼としべを丁寧に取り除き、汁を絞り出します。その汁を和紙に塗っては乾かし、また塗っては乾かしという作業を毎日繰り返して十分に染み込ませていきます。この作業によって、最終的に和紙の乾燥重量は塗り始める前の約3.5倍になり、その色は黒に近い深い藍色に変化します。 花の摘み取りは七月中旬から八月中旬の暑い盛りに行われます。また、オオボウシバナの花の汁は保存が難しいため、その日摘んだ花の汁は、基本的にその日に塗ってしまわなくてはなりません。さらに、この作業に携わる人は、青花紙に汗を落とさないように水分をあまり摂らないように気を付けるといいます。オオボウシバナはかつて「地獄花」とも呼ばれたそうですが、それほどこの作業が過酷だったということでしょう。 このようにして作られるのが青花紙(あおばながみ)で、使う時には小さくちぎって水に浸し、青い色素を浸出させます。 ツユクサ属の学名はコメリナ(Commelina)ですが、これには次のような由来があります。オランダにCommelin家という一族があり、17−18世紀、そこから三人の植物学者が出ました。そのうちの二人は業績を残すことができたのですが、一人は早世したために名を成すことができませんでした。先に述べたように、ツユクサ属の植物は2枚の目立つ花弁と、1枚の目立たない花弁を付けます。植物分類学の祖・リンネは、このことをCommelin家の三人と重ね合わせ、Commelinaと名づけたそうです。ツユクサの持つセンチメンタルなイメージに影響されたのかどうかは分かりませんが、何とも感傷に満ちた命名と言えそうです。 |
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ツユクサ(露草) 古名/ツキクサ(月草・鴨跖草) 別名/アオバナ(青花) 学 名 Commelina communis L. 分 類 ツユクサ科ツユクサ属 原 産 東アジア(日本では全域) タイプ 一年草 |
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