草木図譜 カラスウリ


カラスウリの花(雌花)。花の直径7cm前後(糸状の裂片の端から端まで)。2007.08.19.23:50ごろ撮影
カラスウリの花(雄花)
カラスウリの種子
 夏の夜に、花弁の縁が糸状に長く伸びる花を咲かせます。この複雑な花弁は、蕾の時にはきれいに折りたたまれているのですが、時が訪れると一糸乱れずに展開していき、短時間で完全に開ききります。「糸」の一本一本がみるみる伸びていく様子は不思議で、よくからまったりしないものだと感心させられます。開花が始まるのは夜で、翌朝にはしおれてしまう一日花です。
 ヨルガオやゲッカビジンなどの夜咲きの花は、一般に白もしくは白っぽい色をしています。白い花は月の光の下でよく目立ち、花粉を媒介してくれる動物(カラスウリやヨルガオの場合はガ、ゲッカビジンの場合はコウモリ)へのかっこうの目印となるからです。
 カラスウリは林の縁などに生育する蔓植物。市街地のちょっとした空き地など、人の生活圏内で比較的多く見られることから、かつて人間の手によって植えられたのではないか、と考える人もいます。飢饉の時に、根からでんぷんを採取するために植えておいたのでしょうか。
 雄花だけを付ける雄株と雌花だけを付ける雌株があり、秋になると、雌株はオレンジ色の卵型の果実を付けます。果実の中に入っている種子はよく「カマキリの頭のような形」と形容され、あるいはよく見ると、大きな耳を持った福の神・大黒様の顔にも見えてきます(最近になって言われ始めたような気がしますが、逆さに見て「打ち出の小槌」に見立てる人も多いようです。分からなくはないのですが、私個人としては大黒様の顔に見立てた方が自然なように思えます)。このことから、財布の中に入れて福徳を願うという習慣もあります。昔の人はこの種子を「結び文」(細く折って結んだ手紙)に見立て、「玉梓(たまずさ)」と呼びました。なぜ結び文を玉梓と呼ぶのかというと、古代においては、手紙を梓(あずさ)という木の枝に結び付けて運ぶ習慣があったからです。梓は玉梓の美名で呼ばれ、転じて結び文、手紙がこの名前で呼ばれるようになりました。
 同じカラスウリ属に、黄色い果実を付けるキカラスウリという植物があります。キカラスウリの根から採取されるでんぷんは「天瓜粉・天花粉(てんかふん)」と呼ばれ、あせもなどの薬や白粉(おしろい)として利用されてきました。また、最大1mにもなる細長い果実を付けるヘビウリも、同じカラスウリ属の植物です。
 なお学名のTrichosanthes(トリコサンテス)は、「毛」を表すtrichosと「花」を表すanthosというギリシア語に由来します。このanthosという言葉(およびその変化形)は、たとえばアンスリウム(Anthurium=花+尾の意味)やダイアンサス(Dianthus=神聖な花の意味)など、多くの植物の学名に用いられています。


カラスウリ(烏瓜)
学 名 
Trichosanthes cucumeroides (Ser.) Maxim. ex Franch. et Sav.
分 類 
ウリ科カラスウリ属
原 産 
中国、台湾日本(本州・四国・九州・琉球諸島)
タイプ 
多年草
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