草木図譜 ファトスヘデラ


‘メディアピクタ’という園芸品種のようだが、詳細は不明
X Fatshedera lizei 'Mediapicta'(?)
葉が強く波打つ園芸品種
ファトスヘデラ‘バリエガタ’
X Fatshedera lizei 'Variegata'
 地味な存在なので注目されることも少ないのですが、じつはなかなか珍しい生い立ちを持った植物。なぜなら、日本原産のヤツデの園芸品種‘Moseri’と、イングリッシュアイビーの変種であるアイリッシュアイビー(Hedera helix var. hibernicaの交配によって、人工的に作り出された植物だからです。1910年ごろ、フランスのLize商会の園芸家の手によって作り出されました。
 「人工交配など珍しくもない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、たとえばバラの園芸品種を作る場合、さまざまな原種や園芸品種同士を交配するという試みが、ごく普通に行われています。しかし通常、その交配の親となりうるのは、同じ「属」に所属しているもの同士、バラの場合だったら「バラ属」の植物同士というのが前提となります。ファトスヘデラの場合は両親ともウコギ科の植物ではありますが、一方のヤツデはヤツデ属で、もう一方のアイリッシュアイビーはヘデラ属に属しています。つまりそれだけ縁が遠く、交配が難しいと思われる組み合わせなのです。このファトスヘデラのように、属の異なるもの同士の交配によって生まれた生物を、属間交雑種と呼びます。
 属間交雑種の植物としては、ほかにキク科のソリダゴ属とアスター属の交配によるソリダスター、ヒガンバナ科のアマリリス属とクリヌム属の交配によるアマルクリヌムなどがあります。また、ラン科の場合は属間交雑が比較的簡単なこともあって、三〜四属の複雑な交配による新しい植物も作り出されています。
 さてファトスヘデラですが、葉はヤツデよりは切れ込みが浅く、アイビーよりは深い掌のような形、茎は両親の中間くらいの太さで半蔓性といった具合に、両親の性質を半分ずつ受け継いでいます。両親同様ファトスヘデラも寒さに強く、ヤツデが屋外で生育するような地域であれば、露地植えでも越冬します。直射日光はあまり好まず、半日陰くらいの場所に適しているようです。我が家では、小さな鉢に盆栽風に仕立てたものを屋内に置いていますが、日照時間が短くてもあまり間延びせず、とても育てやすいものです。ある程度生長すると、10〜11月にヤツデと同じような花を咲かせますが、これは実を結ぶことはありません。繁殖は挿し木で行い、春か秋に、葉を1〜2枚付けた茎を赤玉土などに挿しておくと、簡単に根を出します。栽培・繁殖ともに、最もやさしい観葉植物のひとつで、見直されていい存在だと思います。
 緑一色で平らな葉を付けるもののほか、葉の縁に白い斑が入る‘バリエガタ’(写真)、葉の中心部に黄緑色の斑が入る‘メディアピクタ’、葉が緑一色で縮れたように強く波打つものなど、いくつかの園芸品種があります。
 ファトスヘデラという学名は、ヤツデ(ファトシア)属とヘデラ属の交雑種であることを表しています。なおヤツデの属名ファトシアは、「八手」の音読みである「はっしゅ」に由来すると言われています。


ファトスヘデラ ファッツヘデラ
学 名 
X Fatshedera lizei (Cochet) Guillaum
分 類 
ウコギ科ファトスヘデラ属
原 産 
ヤツデとアイリッシュアイビーを交配して作り出された園芸植物
タイプ 
常緑樹
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